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大阪高等裁判所 昭和25年(う)2076号 判決

控訴人 被告人 塩見こと安井秀雄

弁護人 山下知賀夫

検察官 米野謙関与

主文

原判決を破棄する。

被告人に対し刑を免除する

理由

被告人の控訴趣旨について。

原判決挙示の証拠によれば、原判決認定の事実を認めるに十分であり、記録を精査してもこの認定を覆す資料がないから、被告人に本件スクーターの運搬を頼んだのは塩見克己一人であり、また当時被告人はその物件が塩見克己、田中年男の両名が他から窃取して来たものであることを知らなかつた旨の事実誤認の論旨は理由がない。つぎに所論は、塩見克己は被告人の実兄の長男で甥に当り本件当時被告人方に同居していたものであるから、贓物運搬罪としては被告人の刑は免除さるべきものであると主張する。

ところが、原審は、窃盜犯人塩見克己と被告人との右同居の親族の関係を認めながら、他の窃盜共犯田中年男と被告人との間にはそのような身分関係がないとの理由で刑法第二五七条第二項に当ると解して被告人に対して科刑をしたのである。しかしながら、刑法第二五七条第二項は贓物罪の犯人が二人以上の共犯である場合の規定であって、贓物罪の相手方である盜犯人が二人以上の共犯である場合の規定ではない。そこで同法第二五七条第一項の趣旨を考えてみるに、そこに規定するような身分関係のある者の間で行われる贓物に関する行為とても本来その犯罪の成立を阻却するいわれはないが、しかし、これらの者の間に同条所定の行為が行われることは、人情上あながち無理からぬ一面もあるので、その情義を無視してこれを処罰するのは、いささか酷であるとして、その刑を免除するのを適当としたものと解せられるのである。この趣旨によると、たとえ竊盜本犯の中に右のような身分関係のない共犯者が加わっていて、この者も右のような身分関係のある者と共に贓物罪に関与したとしても、いやしくも、贓物犯人と窃盜共犯者の一人とが右のような身分関係にある以上は、刑法二百五十七条第一項に当るものと解するのを相当とするのである。そして原判決が証拠によつて認定したところは、竊盜犯人である右塩見克己と田中年男の両名が共に被告人に対して贓物の運搬方を依頼し、被告人がこれに応じたというのであるから、まさに、同法第二五七条第一項に当り被告人に対してはその刑を免除すべきものであつて、この点の論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条に従い原判決を破棄するところ、当審で直ちに判決することができるから同法第四百条但書によつて主文のとおり判決をする。

(裁判長判事 荻野益三郎 判事 佐藤重臣 判事 梶田幸治)

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